Open Software License 3.0 (OSL 3.0) のソフトウェアを使う人への10の質問

[2013/11/13 追記]OSL については、CodeIgniter3のライセンス問題に対する意見書公開 – ねこげっとぷれす も参照ください。

CodeIgniter のライセンスがバージョン 3.0 から OSL 3.0 に変更される関係で、この OSL というライセンスについて調べて来ましたが、結局、私の結論はよくわからないということになりそうです。

このライセンスは、GPL の法的な問題点を解決するために、法律家が考え出したもののようですが、結果としてはオープンソースコミュニティに混乱と分断をもたらしただけのやっかいなものになってしまうかも知れません。すくなくとも GPL の支持者にとってはそういう負の面が強いように思います。

GPL は仮に法的な問題があるとしても、FSF/GNU の過去何十年かにわたる実績があり、おびただしい数のソフトウェアがあり、多くの人が毎日 GPLGNU のソフトウェアを使っているという事実があります。一方、OSL は単なるライセンスだけがあり、ごく一部のソフトウェアは OSL でライセンスされていますが、実際、オープンソースライセンスとしてはマイナーです。しかも、コピーレフトなのに GPL と互換性がないというわかりにくい存在となっています。

OSL がよくわからないというのは個人的な結論ですが、まとめとして、何がわからないか疑問点をあげておきます。これらの疑問は CodeIgniter のライセンス問題について調べ、議論した結果、生じたものです。CodeIgniter の開発元である EllisLab の影響を大きく受けています。参考文献や過去の議論は、こちら の最後の「参考」にあげてありますので読まれることをお薦めします。

EllisLab の OSL に関する見解に関しては、公式の FAQ と Derek Jones 氏のフォーラムでの発言は矛盾する、あるいは、公式の FAQ は OSL のコードを全く変更しない場合の義務について記載されていない不完全なもの、と現在私は理解しています。ただし、私に誤解があり、両者は矛盾することなく、また、FAQ も完全であるという可能性もあるのかも知れません。


なお、この文章は、少々ディフェンシブに感じられるかも知れませんが、これは以下の理由からです。

1. CodeIgniter の開発元の EllisLab の影響。

  • EllisLab は開発者とくに GPL 支持者に対して、フレンドリーではなく、どちらかというと GPL に敵対的です。あるいは、そのことが、今回の CodeIgniter のライセンス問題で表面化しました。
  • 今回の CodeIgniter のライセンス問題で EllisLab は 後出しジャンケン と言われるような行動に出ました。それゆえ、今後もどんな bomb を後から出してくるかわからないという懸念が生じています。
  • また、EllisLab は今回のライセンス変更に際し、法的に問題ないとの判断から、過去のソースコード寄贈者にはライセンス変更に関する意思は全く問わず、いきなりライセンスを変更すると発表し、強引にことを進めました。営利企業なので自己の利益を目的とするとことは問題ありませんが、法的に問題がなければ少々強引なことをしてもかまわないという企業姿勢であるという印象は否めません。EllisLab と競合する製品、例えば CMS を開発しているというような場合は、将来的に EllisLab の考えによっては、自分の製品が潰されるリスクを検討しておくこともビジネスでは必要になるのではないかと思われます。
  • 原著作者との関係が良好な場合は、多くの法的なリスクが実際には軽減される可能性が高まると思います。

2. 法的なことなので、厳密に検討することが本来であるため、厳しすぎるくらいの方がちょうどよいと考えられるため。

  • 現在、原著作者との関係が良好だとしても将来はわかりません。組織の場合は人が代わり方針が変わる可能性もありますし、個人でも考えが変わることもあります。

他の人もそうしているという理由で、ライセンスをきちんと検討しないことは法的なリスクが残ります。実際、今回の CodeIgniter のライセンス問題で、多くの人(その中には過去に EllisLab で CodeIgniter の開発に関わった人もいました)が CodeIgniter ライセンスは GPL と互換であると信じて行動してきた結果、多くのあるいは少々の損害を受けました。


もし、OSL のソフトウェアを使う場合は、この記事の疑問に自信をもって答えられることが望ましいと思います。万一、OSL に違反している場合は、最悪、ライセンスを取り消される、つまりそのソフトをいきなり使えなくなるというリスクが法的にはありますから。

9)
This License shall terminate immediately and You may no longer exercise any of the rights granted to You by this License upon your failure to honor the conditions in Section 1(c).

OSL を法的にきちんと検討された方がいれば、これらの疑問に、個人的な見解として回答していただけるとありがたいです。もちろん、法律の専門家の方が専門家としての見解を表明していただくことも歓迎します。ライセンスに関する疑問が減り、正しい理解が進めば、OSL も過剰に恐れられず、今よりも利用しやすいものになるのではないかと思います。少なくとも、検討される前に選択肢から外されることは減ると思います。

なお、OSL の引用の強調部分はブログの著者によるものです。

質問 1. OSL のフレームワークを元にソフトウェアを作成するとします。あなたの書いたコードは派生物になるでしょうか?

OSL では、派生物 (Derivative Works) を以下のように定義しています。

1(b)
to translate, adapt, alter, traform, modify, or arrange the Original Work, thereby creating derivative works ("Derivative Works") based upon the Original Work

この定義にあてはまる場合は派生物となり、派生物は OSL でライセンスしなければいけません。

1(c)
to distribute or communicate copies of the Original Work and Derivative Works to the public, with the proviso that copies of Original Work or Derivative Works that You distribute or communicate shall be licensed under this Open Software License;

いわゆるコピーレフトの規定です。

例えば、OSL のソースを変更した場合は派生物でしょうが、一切変更せずに自分のソースファイルを追加しただけの場合は、100% 派生物でないといえるのでしょうか?

また、この派生物の定義は、国内法ではどのように解釈すべきでしょうか?

確かに、OSL の作者の Lawrence Rosen 氏は、派生物を限定的に解釈するべきという見解 を表明しており、それなりに納得できますが、この見解がそもそも通説なのかはよくわかりません。仮にアメリカで通説だとしても、日本ではどうなのかはまた別の問題だと思われます。

質問 2. OSL のフレームワークの原著作者が、OSL のソースファイルを変更しない場合は派生物に該当しないと言いました。この主張にはどのような法律上の効果がありますか?

この主張は、OSL の解釈に影響するのでしょうか?しないのでしょうか?

質問 3. 上記 2. の場合にその主張が記載されたページに「The content in this document is neither legal advice nor a legally binding interpretation of the OSL 3.0 license.」と注意書きがありました。この場合、どのような法律上の効果がありますか?

「OSL のソースファイルを変更しない場合は派生物に該当しない」という主張は、OSL の解釈に影響するのでしょうか?しないのでしょうか?

原著作者が、後からこの主張は間違いだったと取り消した場合はどうなるでしょうか?

質問 4. 元のクラスのソースが OSL の場合、それを継承したクラスのコードは派生物でしょうか?

この場合、OSL のフレームワークのソースは一切変更していません。自分のクラスのファイルを追加しただけです。これは派生物に該当するのでしょうか?該当しないのでしょうか?それだけではわからないでしょうか?

質問 5. OSL のソフトウェアを一切変更せずに、公開 Web サイトで利用するとします。あなたの義務は何でしょうか?

OSL では External Deployment (外部展開) として、ネットワークでの利用も 1(c) での配布として取り扱わなくてはならないという規定があります。1(c) とはコピーレフトの規定です。

5)
The term "External Deployment" means the use, distribution, or communication of the Original Work or Derivative Works in any way such that the Original Work or Derivative Works may be used by anyone other than You, whether those works are distributed or communicated to those persons or made available as an application intended for use over a network. As an express condition for the grants of license hereunder, You must treat any External Deployment by You of the Original Work or a Derivative Work as a distribution under section 1(c).

OSL では、原著作物 (Original Work) を配布するごとにソースコードを提供するか、原著作物を配布している間、安価で都合のよくアクセスできると合理的に予測されるリポジトリソースコードを置くことでこの義務を果たすことができるとしています。

3)
Licensor agrees to provide a machine-readable copy of the Source Code of the Original Work along with each copy of the Original Work that Licensor distributes. Licensor reserves the right to satisfy this obligation by placing a machine-readable copy of the Source Code in an information repository reasonably calculated to permit inexpensive and convenient access by You for as long as Licensor continues to distribute the Original Work.

この場合、あなたは、使っている OSL のソフトウェア(原著作物)のソースコードを開示する義務はあるのでしょうか?ないのでしょうか?

質問 6. 上記の 5. のソースコード提供義務は誰が誰に負うのでしょうか?

あなたは、OSL のソフトウェアを使っているあなたの公開 Web サイトへの訪問者にその義務を負うのでしょうか?

質問 7. OSL には「受取人のライセンスへの明確な同意を得るための合理的な努力をしなければならない」という規定がありますが、これは誰に対してその義務があるのでしょうか?

9)
If You distribute or communicate copies of the Original Work or a Derivative Work, You must make a reasonable effort under the circumstances to obtain the express assent of recipients to the terms of this License.

OSL のソフトウェアを使っている公開 Web サイトの所有者は、サイトへの訪問者に対して「ライセンスへの明確な同意」を得る必要があるのでしょうか?

質問 8. 上記 7. では、同意を得る合理的な努力をしなければならないとなっており、同意を得なければならないとはなっていません。具体的にどの程度のことをすればこの義務を果たすことになるのでしょうか?

FSF は、FTP サイトでの配布、メーリングリストへのパッチの投稿、バージョン管理システムへの保存のような通常のフリーソフトウェア開発で行われる行為は、ほぼ間違いなくライセンス違反であり、あなたはライセンスを打ち切られる可能性があるとの見解を表明しています。

Recent versions of the Open Software License have a term which requires distributors to try to obtain explicit assent to the license. This means that distributing OSL software on ordinary FTP sites, sending patches to ordinary mailing lists, or storing the software in an ordinary version control system, is arguably a violation of the license and would subject you to possible termination of the license. Thus, the Open Software License makes it very difficult to develop software using the ordinary tools of free software development.

http://www.gnu.org/licenses/license-list.html#OSL

質問 9. OSL のソフトウェアを変更し作成した派生物とともに、公開 Web サイトで利用するとします。あなたの義務は何でしょうか?

あなたは誰に対してどのように派生物のソースコードを提供すればよいのでしょう?

原著作物のソースコードは提供しなくてもよいのでしょうか?

また、その他にはどんな義務があるでしょうか?

質問 10. ソースコードの提供義務での「安価で都合のよくアクセスできると合理的に予測される」とは、具体的にどのような方法であればいいのでしょう?

ソースコードは、配布するごとに提供するか、安価で都合のよくアクセスできると合理的に予測される情報リポジトリに置く必要があります。

3)
Licensor agrees to provide a machine-readable copy of the Source Code of the Original Work along with each copy of the Original Work that Licensor distributes. Licensor reserves the right to satisfy this obligation by placing a machine-readable copy of the Source Code in an information repository reasonably calculated to permit inexpensive and convenient access by You for as long as Licensor continues to distribute the Original Work.

具体的にどのようにすれば、この義務を果たせるでしょうか?